お知らせ
講演会レポート
2019.10.23
2019年9月15日(日)群馬パース大学で開催されました第5回PGT研究会へ参加さていただき、更には「PGT-Aを受ける患者さんの心理側面」という演目で講演させて頂きました。
今回は、この研究会で発表された演目の中でもタイのバンコクで胚培養士をされている方の「モザイク胚移植による臨床成績の検討について」を研究会のレポートとしてご紹介させていただきたいと思います。※メルマガに関して協賛のイルミナ社と演者様に了承を得ております。
※無断転載はお断りします。
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講演1 ASSESSMENT OF CLINICAL OUTCOMES AFTER TRANSFER OF MOZAIC EMBRYOS (イルミナ協賛)
演者 Wanwisa Suksalak(タイのバンコクで染色体解析をされている女性)
~モザイク胚移植による臨床成績の検討について~
我々の会社は染色体解析をしていますが昔はaCGHでした。しかし2014年からはNGSでやっています。タイで初めてNGSの検査を我々が行いました。PGS、今はPGT-Aと言われますが胚の染色体の異数性を検査する検査です。昔aCGHでしていた時代にはエラーも多かったですがNGSになってから正常、異常その中間のモザイクというのが出てきました。ですから今日はモザイクの話をさせていただきます。
2011 aCGH エラーも多くありました。
2014 NGS ができて正常、異常に加えモザイクができました。 解析度など高精度で優れています。
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スライド(1)
モザイク、英語ではMosaicism、一番左が正常胚、真ん中が異常胚、右はモザイクで青いものが正常、赤いものが異常、赤いものにはトリソミーがあったりモノソミーがあったり、また両方あったりということでこのような胚のことをモザイク胚といいます。
胚の染色体をチェックするのに昔は分割胚でやっていました。分割胚ですと一つの細胞を調べるのでモザイクはわからないです。胚盤胞にするといくつかの細胞をチェックするので異常細胞が混ざっているものはモザイクという診断ができます。
皆様ご存知のようにFISHですといくつかの細胞だけですしqPCRはもっと細かい染色体の一部分の分析、aCGHの場合は比較で行うのでなかなか詳細は分析はできないですがNGSですとはっきり細かな異常が詳しく分析できます。今はNGSにたどり着いたということです。スライド(2)
見てわかるように上がNGSで下がaCGHで12番の染色体のモザイクは下でははっきりしないが上のNGSで見ると非常にはっきりわかるということでNGSがいかに優れているかということが分かります。 NGSの方が解析度など細かく見えることができいかにNGSが素晴らしいかが分かります。
スライド(3)
たまたま採ったところに何個モノソミー、トリソミーが入ってくるかということでそれが全体を代表するかのように診断します。たとえば5個取って2個入っていたら40%モザイクという風に出てきますが全体を正確に表すとは限りません。
このようなことが実際起こっていますので患者さんに話をするときにこのようなことを知ってお話をしないと全く正常ですよという話をして実はそうじゃないということもあるのでその辺を良く知っておいてください。 この表を見てわかるようにモザイクの胚を移植してもちゃんと妊娠出産できます。もちろん妊娠率は33%と低いですし着床率も低いですが重要な点はモザイクを戻しても正常な赤ちゃんが出産されるということです。スライド(4)
これを見てもらったらわかりますようにモザイクで38%が着床しますが妊娠継続率は27%、Euploid(正倍数性)で58%の着床率と分娩までいく妊娠率が46%、もちろんそちらの方が高いですがモザイクでもちゃんと出産まで至るということが大事かと思います。
スライド(5)
モザイクを移植しても一定の成績は出ていますがモザイクの比率によって成績は変わってきます。モザイクの比率が50%以下の場合と50%以上の場合を比べてみますと50%以下の方がもちろん成績はいいです。
これは私たちのクリニックの成績ですが39人の患者様で一つも正常胚がなかった方にモザイクの胚1個を戻したときにどういう成績になるかを検証しました。 臨床妊娠(胎嚢が確認されたもの)が23人で59%、化学的妊娠Bio chemical Pregnancy(妊娠反応検査で陽性となったもの)が2人で5%、妊娠しなかったのが14人で36%でした。モザイク胚を戻したときの成績です。スライド(6)
これはモザイク比率が20%、30%、40%の時の妊娠率です。 20%では83%の妊娠率、30%では58%、40%では47%の妊娠率が出ています。
スライド(7)
これは何個の染色体がモザイクに関わっているかによって妊娠しやすさが変わるかという図です。1個だけでしたら17人妊娠していて9人妊娠しなかった、2個なら4人妊娠していて1人妊娠しなかった。5個の場合は1個戻して妊娠しなかったということです。やっぱり染色体の数が多いほど妊娠例は減るということです。
モザイク胚を戻したときの妊娠率は年齢が上がっても妊娠率は下がらない。正常胚を戻すのと同じ感じ、モザイクもある種の半分正常胚みたいなものだから年齢が上がっても妊娠率は下がらないということがわかります。
スライド(8)
オレンジが正常胚、青がローレベルのモザイク胚です。戻したときの妊娠率、モザイク胚の方がいいくらいに出ています。妊娠しない率はモザイク胚が36%、ローレベルのモザイクであれば正常胚と変わらないという結果が出ています。
スライド(9)
これはいわゆるどのようなモザイクを戻したらよいか、ヨーロッパの学会の推奨ですが一番左がローリスク、MLはモザイクのモノソミー,MGはトリソミーです。一番左のであれば戻してもそんなにリスクはないよということです。一番右のハイリスクの方はNIPTでも言われていますが13,18,21なんかは染色体異常でも着床すれば生まれてきます。一番右のようなモザイク胚は戻さない方が良いのではというのがモザイク胚についてのヨーロッパの学会の推奨です。
正常胚がない場合は患者さんは遺伝カウンセラーやドクターとよく相談の上どの胚を戻すかということを決めましょう。モザイク胚を戻したときには羊水検査をすることをお勧めします。絨毛検査はPGT-Aと同じように胎盤の検査なので同じような結果が出ますが羊水検査は胎児の検査ですので本当に胎児が正常かどうかが分かります。検査をされるときは羊水検査をぜひしていただきたいです。
我々のところでは40%以下のローレベルモザイクであればほとんど正常と同じように着床しています。ハイレベルの場合は着床率は下がってきます。 先ほどから言っていますがモザイク胚を戻すということはちゃんと出産に結び付くことが示されたと思います。ですがその結果赤ちゃんがどうなるかはまだまだ今回の39例のみではわからないので今後もっと大規模な研究をずっと続けていく必要があると思います。 モザイクを戻す前には遺伝カウンセリングを十分行いその後妊娠された場合は羊水検査のような出生前診断(胎児の診断)をきちんと行うことを我々は推奨しています。質問
Q1 モザイク胚を戻した後の羊水検査の結果は?
A 羊水検査を薦めていますがその結果をフィードバックいただいていないからわからない。 正常胚を戻した場合でももちろん異常なこともありますから羊水検査の結果を戻してほしいといっていますが現在のところわが社ではフィードバックを受け取っていないのでわからない。
Q2 日本の人たちがたくさんPGT-Aをタイに受けに行っていると聞くが実際そうですか?
A 10-20%の患者さんが日本から来ていたようですが今はほとんどいない。
Q3 タイでは誰がどのようにモザイクの情報を与えているか?
A 最終的には医者が話をするが患者さん、医師、カウンセラーが相談の上どれを戻すかは医師の方から話す。
Q4 タイには遺伝カウンセラーたくさんいますか?
A そんなにたくさんいない、最終決定などで必要な場合はそういう場に依頼する。
Q5 数年前に法案を成立したので外国人を対象にするPGT-Aは禁止されているから今は無理。モザイクですが世界標準では20%モザイクから80%モザイクまでをモザイクと定期議している。だから20%以下のモザイクは実質上モザイクとはみなされないので20%モザイクの胚移植の妊娠率はある意味高いのは当然だと思います。
A 今回は20%以下は正常胚と分類しているのでローレベルというのは20%以上40%以下ということ
Q6 モザイクの流産率はどうか?
A 平均で25%の流産率。もちろんモザイク率が高くなるほど流産率も高くなることもある
Q7 部分的なモザイク(セグメンタルモザイク)があったときはどうするんですか?
A 妊娠率は低い。子供に異常が起こることがあるのでセグメンタルモザイクしかない場合それを戻すかどうかはカウンセラーと医者と患者さんとよくよく相談の上も出さないといけない。どこが欠けているかによってそれぞれの疾患を話し合う必要がある。
以上レポートになります。
幹事の感想
自分が持っているモザイク胚にあてはめながら、ローリスクだと〜、異数性のある染色体数が1つだと〜、部分的だと〜というふうに、色々な側面からのデータがあるところが 今まで私が見てきたデータと違い良かったです。移植するか悩む時に、参考になると思います。