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第38回日本受精着床学会総会・学術講演会 議事録

2020.12

第38回日本受精着床学会総会・学術講演会

テーマ 『グローバリゼーション』 ~ 広がるARTの世界を考える ~

会期 2020年10月1日(木)~23日(金)学術講演会Web開催(オンデマンド配信)

いくつかの演題の中から幹事が自ら選びオンライン聴講をしました。
簡単ですがレポートを配信させていただきます。

シンポジウム1「着床前診断 -過去と未来-」 PGT(preimplantation genetic testing)過去現在未来
竹内 一浩(竹内レディースクリニック附設高度生殖医療センター)

PGT-Aについての問題点

  1. 1)特に問題となるのは年齢が高い方の問題点
    1. ①採卵個数が少ない
    2. ②胚盤胞率が少ない
  2. 2)モザイクの問題点
    1. ①海外の文献よりPGT-Aを施工することによって全年齢層でコスト削減をすることができる。 それは38歳以上においてより顕著であり治療期間も短縮できるとするものが多い
    2. ②同様にPGT-Aは単一胚移植において妊娠率を向上させ流産のリスクを軽減させるとする文献が多い
    3. ③ただし移植可能な胚の数が2つ以上の場合であり採卵個数が少なくPGT-Aできる胚が1つしかない場合はその限りではない(恩恵を受けない)またあまり年齢の若い場合でも恩恵を受けない可能性がある
    4. ④PGT-Aは施設間における成功率に差がみられる。(ARTの成績ならびにPGT-Aの技術やサンプリングの熟練が必要である)

    感想
    年齢の高い方は体力面と金銭面で問題ないのであれば少しでも若いうちに何度か採卵を行いPGT-Aに出せる胚を一つでも多く貯めておくことが結局は精神的にも安心できると思いました。 今いろいろなクリニックで条件つきではありますがPGT-Aが出来るようになったけれど施設間における成功率にはやはり差がみられるとのこと。(これは海外でも同じのようです) ART,PGT-Aの成績を患者にもわかるようにHPなどで公表して「近いから」という理由だけでなく自分が納得できるクリニックを自分自身で選びそして治療に後悔してほしくないと思いました。

    着床前胚異数性検査(PGT-A)説明会に参加した患者の意識調査 手島しおり(セント・ルカ産婦人科)

    <対象・方法>
    2019年8月〜2020年7月に、PGT-Aの説明会に参加・動画配信を視聴した患者
    女性 204名 平均年齢 36.2歳(±4.61)
    男性 221名 平均年齢 37.8歳(±6.23)
    合計 425名

    説明会実施・動画視聴後にPGT-Aに関する自記式質問紙を配布し、説明会実施後、または動画視聴の場合は後日回収した。

    <結果>
    ①PGT-Aに賛成か反対か(N=425)
    賛成  95.1%(404/425)
    反対  0.9%(4/425)
    無記入 4.0%(17/425)

    反対の理由は、良い事(流産率が下がるなど)に比べ、抱える負担(染色体の検査や費用、精神面など)が大きい。

    ②PGT-Aを行うことに対して倫理的な問題はあると思うか
    なし 56.0%(238/425)
    あり 44.0%(187/425)
    ありの内訳(N=187 複数回答あり)

    • 診断結果が100%確実でないことで障がいがない胚を廃棄してしまう 女性67名、男性27名
    • 障がいがあるかもしれないが生まれることができる胚を廃棄してしまう 女性51名、男性36名
    • 人間の手で胚を選んで良いのか 女性25名、男性24名
    • 障がい者や、障がい者をもつ親に対して差別を生む 女性25名、男性15名
    • 将来、優生思想につながるのではないか 女性22名、男性16名
    • 何とも言えない、どちらとも言えない 女性7名、男性9名

    ③PGT-Aを行うことに対して倫理的な問題以外に不安に思うことはあるか(N=134 複数回答あり)

    • 費用 27名
    • 受精卵への影響 24名
    • 検査の限界 16名
    • 自分たちの染色体異常が分かること 15名
    • 検査結果の受け止め方 11名
    • 夫婦での価値観の相違 9名
    • 将来の子どもへの影響 7名
    • 生児獲得の可能性がなくなること 5名
    • その他(精神的影響、検査自体への疑念、情報の管理、検査までの期間、漠然とした不安など)20名

    《詳細》

    費用

    • 検査に至る胚を確保するまでの経済的な不安
    • PGT-Aで絶対に子どもを授かるわけではないし、費用もどれだけかかるか不安

    受精卵への影響

    • 診断に使う分の細胞が減ることで生まれてきても将来的な影響はないのか、未知数なため不安である
    • 検査のための採取によって胚への影響がないのか

    検査の限界

    • A判定の胚であっても障がいが出る可能性があること
    • 必ず妊娠するわけではない事

    自分たちの染色体異常が分かること

    • 知りたいこと以外がわかってしまう事
    • 染色体の異常を知ってしまった時に今後の人生や夫婦関係にどう影響するか

    <考察>

    • PGT-Aに大多数が賛成であった。 長い間治療をしても結果がでなかった患者や、妊娠したとしても流産という結果に至ってしまっていた患者にとって、期待が大きいことが分かった。
    • 半数が倫理的な問題があると回答し、今までは移植していた胚を廃棄することへの抵抗感を感じていた。
    • 受精卵の細胞を採取することによる胚への影響や、採卵に加えて検査に必要な費用を捻出することへの不安が高いことがうかがえた。

    感想
    PGT-Aに95%という大多数の賛成。
    発表者の考察にもあったように、長い間治療をしても結果が出なかった患者や、妊娠しても流産に至ってしまっていた患者にとって、どれだけ期待が大きい検査かを改めて痛感しました。
    1日でも早く、PGT-Aを希望するすべての患者が検査できる世の中になって欲しいと願っています。

    一般口演「胚生検手技の違いがNGS解析結果に与える影響」
    竹内レディースクリニック附設高度生殖医療センター 徳留茉里

    1. 目的

    PGTのNGS診断結果において施設や手技により診断結果及びモザイク発生頻度の差異が報告されている。
    それについてNGS解析結果を元に検討を実施。

    2. 検討方法

    1. a 採取細胞のPBS(注1)洗浄を非実施(TE(栄養外胚葉細胞)をレーザーで切除するpulling法にて)
    2. b 採取細胞にレーザー過剰照射(pulling法)
    3. c flicking法(レーザーを使用しない)の適用
    1. a b は構造異常以外にモザイクなどの問題が見られなかった胚を用いて胚生検を実施しモザイクの発現が見られるか検証
    2. c は構造異常以外にモザイクが発生した胚を用い胚生検を実施しモザイクが減少するか検討

    3. 結果

    1. a 6個中4個は変化なし。ノイズの発生が多数あり。
    2. b 12個中9個は変化なし。
    3. c flicking法(平均採取細胞数8.5個)はpulling法(平均採取細胞数5.1個)に比べ採取細胞数が有意に多かった。

    追加検討 解析時の採取細胞数によるモザイク発現の評価を行い、カットオフ値を算出 → 5と算出

    4. まとめ及び考察 胚生検細胞の洗浄はノイズの増加などNGS解析結果品質に影響を及ぼす可能性がありまたレーザーを過剰照射しても影響のない検体も見られた Flicking法はモザイクの減少傾向がみられたがpulling法と比較し採取細胞数が有意に多くなった。
    Pulling法でのモザイク発現の比較では採取細胞数に有意な差が見られた。
    その為モザイクの発現は胚生検手技ではなく胚生検採取細胞数がモザイクの発生に影響がある可能性も示唆されました。
    モザイク発現の(+)(−)の採取細胞数カットオフ値は5個

    5. 以上をふまえて竹内レディースクリニックでのTE Biopsy 基準

    • 栄養外胚葉(TE)細胞がより得られる状態まで培養
    • Pulling法をベースにし、胚の状態により胚生検方法を適宜選択
    • 胚生検細胞は5細胞以上採取

    臨床でも安定した結果を得られている

    ※PBS洗浄・・
    リン酸緩衝生理食塩水(りんさんかんしょうせいりしょくえんすい、英: Phosphate-buffered saline, 略称: PBS)は、細胞生物学、生化学等の細胞を扱う実験でよく利用される緩衝液。

    *カットオフ値・・カットオフ値は,病態を識別するための検査・測定に用いられ,基準範囲を基本として正常とみなす範囲を決めるとき,その範囲を区切る値のことを意味する

    感想
    TE(栄養外胚葉細胞)は胎盤となる部分であり、質が良いほど妊娠率が良いと言う説があるため、栄養外胚葉細胞数がより得られるようpulling法をベースとしながらも胚の状態により検査方法を選択されているのかなと思いました。