お知らせ
第5回 日本産婦人科遺伝診療学会聴講レポート 3回目
2020.02
第5回日本産科婦人科遺伝診療学会学術講演会のレポート第3回目です。
今回は、ポスター発表1演題とシンポジウム1演題についてです。
ポスター発表は、幹事の間で反響のあった「胚盤胞にまでならなかった胚の染色体異常」についてです。
初期胚(分割期胚)を移植するクリニックは今も多くあるようですが、初期胚で体外受精は成功するのでしょうか・・・?
皆さんにご確認いただきたく思います。
シンポジウムの演題は、報道マンの立場から「優生社会」について問うています。
堅苦しくなくドキュメンタリーのようで、読んでいただきやすい内容です。
重要部分には下線、更にコメントも記載しておりますので、合わせてご覧ください。
非胚盤胞到達胚の次世代シークエンサーを用いた異数性染色体異常の分析
箕浦博之 (みのうらレデイースクリニック)
戸浩明 (川戸レディースクリニック)
【目的】
近年、ヒト初期胚の胚盤胞までの体外培養が広く臨床に応用されている。
胚盤胞移植は分割胚移植に比べ着床率が高いが、受精卵の胚盤胞到達率は約50%程度であり約半数の胚盤胞にならなかった胚(非胚盤胞到達胚)は廃棄されることとなる。
つまり生児獲得に至る可能性のある正常胚を廃棄してしまう危険性がある。
そこで今回、我々は次世代シークエンサー(NGS)を用いて非胚盤胞到達胚の染色体分析を試みた。
【方法】
妻年齢が38歳以下であり同意が得られた15症例を対象とした。
体外受精あるいは顕微授精により受精後、分割期胚あるいは桑実胚の段階で発生が停止した20個の初期胚に対し、NGSによる染色体分析を施行した。
【結果】
非胚盤胞到達胚20個の内、18個の胚に異数性(*)染色体異常を認めた。
形態良好胚盤胞20個の内6個に異数性異常を認めた。
(*)異数性 : 染色体数が正常より1〜2個多かったり足りない現象
【結論】
非胚盤胞到達胚の90% に異数性染色体異常を認められた。
よって胚盤胞の段階で胚を評価し移植胚を選別することがより有用であると思われた。
【幹事Cコメント】
胚盤胞にまでならなかった胚(非胚盤胞到達胚)を移植するクリニックは結構多いと聞きます。
しかしそのような胚のほとんどには染色体異常があるという結果でした。
そして見た目が綺麗な胚盤胞でも約30%に染色体異常がみられました。
せめて綺麗な胚盤胞を移植しないと生児を得ることは難しいということですが、そもそも胚盤胞まで育てるには高い技術が必要であり、そのような技術を持つクリニックを患者側が見極めるのは難しいと思いました。
周産期シンポジウム
座長:左合 治彦(国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
キャンペーン報道「優生社会を問う」の現場から
千葉 紀和(毎日新聞東京本社科学環境部)
「妊婦相手「不安ビジネス」の実像に迫る」
医学面や倫理面から施設要件を厳しく定めた日本産科婦人科学会の指針に反し、新型出生前診断(NIPT)を請け負う無認定の医療機関の急増が問題化している。
「全国に施設があれば妊婦は負担の重い長距離移動をせずに済むでしょう」。 東京・麻布十番にあるDNA先端医療株式会社。栗原慎一社長は胸を張る。
NIPTは妊婦の血液から胎児の染色体異常の可能性を推定する。同社は美容外科などに妊婦への検査を呼びかけて採血するよう声をかけ、集めた血液を英国などの検査企業に国際宅配便で送る仲介業者だ。
1人の妊婦が支払う費用は検査内容によって1回20万円前後。半分近くが利益で、採血施設と分け合う。
オフィスを訪ねると、若者たちが電話対応に追われていた。妊婦からの問い合わせや検査予約、検体の集荷はここで一括管理する。
30代の栗原さんは商社を経て昨夏、同社を設立した。
「国会議員が注目する26社」という書籍にも紹介されている若手起業家だ。
「検査に倫理面で議論があるのは承知している。でも、希望する妊婦が受けられない現状を変えたい」と熱く語る。
一方、収益を尋ねると別の顔をのぞかせた。
「このビジネスでどうやれば赤字になるんですか」
「何ら法的問題はありません」
学会の認定を受けず新型出生前診断(NIPT)を実施する医療機関の9割は、普段妊婦を診察することのない産婦人科以外の診療施設だった。
急増する実施施設は「カウンセリングもなく手軽に検査できる」と利用を呼びかける。
背景には「命の選別につながる」との議論もある検査を巡る規制が、学会の指針だけという不十分な実態がある。
- 2019年7月末時点で40施設
- 9割が産科以外(美容外科が21施設)
- 遺伝カウンセリングなし
- 陽性でもほったらかし
- 件数は「認定施設の倍」なんてことはない。
出生前診断の急速なビジネス化や利用の拡大に、障害のある当事者や支援団体が危機感を強めている。
「本人や家族が不幸」と決め付けられたり、「育児に多額の費用がかかる」と誤解されたりすることの解消に向け、多様な家族の姿を伝えたり、福祉や経済支援の制度を紹介したりと取り組みを広げてきた。
それでも「医療者の偏見は変わらず、社会の理解も足りない」と苦悩している。
一番の問題は、加速する出生前診断のビジネス化が人々の不安をあおり、同調圧力で「命の選別」を強いる社会への変質が進むことだ。
(まとめと(千葉さんの)個人的意見)
-
「不安ビジネス」の実態は極めて問題。
どのように退場させるのか、医学界全体でこの道の議論を。 - 対抗して易きに流れるのでは、正当性がなくなります。
- 「排除の対象は、その時代の空気で拡大される」これが優生保護法の教訓の一つです。
- 技術の進展が見えているからこそ「優生の歴史」に謙虚に。
- ぜひ産婦人科領域も、優生保護法への関与の検証を。
「優生社会を拒否しなくてはならない!障害者を否定することは絶対にいけない!」
<壇上でのディスカッション>
Dr.A「無認可施設にNIPT希望妊婦が多く流れている。(検査費用が)20万もかかるのに。
しっかりカウンセリングできる医師のいる施設へ行って欲しいがどうすれば・・・?」
→「変な検査会社は法律で規制すべき。本当は学会で規制すべきだったができなかった。」
Dr.B「妊婦が希望して受ける出生前診断と、今生きている障害者の支援は別だと思っている」
Dr.C「僕もそう思っている。小児科のDrで、一人目ダウン症で二人目で出生前診断を希望している妊婦に検査をやめさせようとする人がいるが、それは良くない。患者の生活を考えるべきだ」
→左合Dr.「日本は現在ダブルスタンダードだ。そういう意見も、出生前診断が障害者差別であるという考えも、どちらも正しい。」
<会場全体での質疑応答>
カウンセラー「NIPTが高額なのが問題(認定施設で安く受けられるようにすべき)」
→左合Dr.「(価格については)自分たちは何もできない。もっと安くするべきだとは思うけど」
Dr.「分娩できる施設が(認定の)条件だと、忙しくてカウンセリングする時間がない。NIPTで陽性だと95%が中絶するのでカウンセリングは必須。しかし短時間でカウンセリングするのは無理」
→左合Dr.「妊娠前から(胎児の障害について)社会全体で考えるべき。とりあえず(この問題についての)冊子を学会で作ろうか?」
【幹事Cコメント】
座長の左合先生のコメント「日本は現在ダブルスタンダードである」このことについて学会は特に解決策を示さず「そうですね」と現状を受け入れているだけの状態である。
毎日新聞の千葉さんは「報道」という面から興味深い話をされていましたが、障害者差別についてちょっと障害者側に偏りすぎかなと個人的には思いました。
◇旧優生保護法
「不良な子孫の出生防止」を掲げて1948年施行。
知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に本人の同意がなくても不妊手術を認めた。
ハンセン病患者も同意に基づき手術された。
53年の国の通知はやむをえない場合、身体拘束や麻酔薬の使用、騙した上での手術も容認。
日弁連によると、96年の「母体保護法」への改定までに障害者らへの不妊手術は2万5000人に行われた。
同様の法律により不妊手術が行われたスウェーデンやドイツでは、国が被害者に正式に謝罪・補償している。
【東京新聞記事より抜粋】
◇母体保護法
旧「優生保護法」に 代るものとして,1996年に制定,公布された法律。
母性の生命と健康を保護することを目的とし,そのために一定の条件をそなえた場合には不妊手術または人工妊娠中絶を認めたものである。
【ブリタニカ国際大百科事典より抜粋】