流産率の低下と着床率の向上を目的とする着床前診断を推進する会

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第5回 日本産婦人科遺伝診療学会聴講レポート 1回目

2020.01

12/20~21に東京で行われた第5回日本産科婦人科遺伝診療学会学術講演会に幹事2名とスペシャルサポーター1名で参加してまいりましたので、その聴講レポートをこれから3回に分けてお送り致します。

今回の学会では、今年からスタートするPGT-Aの臨床研究の拡大に向けて関連演題の発表が多数あり、会場も満席で先生方の関心の高さが伺えました。
また、聴講した私たちも大変勉強になる内容でした。

第1回のレポートは、ポスター発表1演題とランチョンセミナー2演題についてです。
国内の先行研究として小規模に行われたPGT-Aの臨床研究の最終結果を含め、ご報告いたします。
患者側が知らないと不利益を被るような話も含みますので、特に臨床研究に参加したいと考えている方々には是非ともお読みいただきたい内容になっております。
今回レポートは習慣流産患者で現在治療中の幹事Aが執筆しており、重要部分には下線、更にコメントも記載しておりますので、合わせてご覧ください。

ポスター発表
当院の流産染色体検査における既往流産回数と染色体異常率に関する後方視的検討
笠原 佑太(東京慈恵会医科大学医学部産婦人科学講座)先生

自然流産の頻度は約15%と言われるが、習慣流産(流産3回以上)の患者では、流産回数と共に流産率が高まるというデータがある。
今回はその原因が染色体異常率の増加なのかを明らかにするため、流産回数と流産染色体異常率の相関関係について調査した。

流産1回(85人)、流産2回(32人)、流産3回(28人)のグループに分けて、染色体異常の出現率(%)を下記に示す。
流産1回:63.5%
流産2回:78.1%
流産3回:82.1%

統計解析の結果、有意差(※1)は認められず、流産回数と染色体異常率の相関はない、母体年齢の方が影響するのではないかという結論になっていた。

【幹事Aコメント】
統計的な有意差は出なかったということだが、数値だけをみれば流産回数と共に染色体異常率も増加する傾向にあるように見えた。
以前、杉浦先生のグループが流産回数とともに流産率は高まるが、染色体異常率は低下するという報告もしているが、少なくとも今回の結果を見ると低下はないように思う。
私自身も不育症の検査では何も異常がない習慣流産患者で未だ出産できずにいるため、この演題は大変興味深かった。

ランチョンセミナー
PGT-A の有用性と今後の課題
福田 愛作(IVF 大阪クリニック)先生

まずは、最近の体外受精の動向についてお話しされた。
年々体外受精が増え、来年には10人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれる。
最近は30-40代の体外受精は減少傾向で、20代が増えてきた。
日本は1個しか胚をも出さないが、アメリカの学会では、移植の個数は年齢に応じて変えていくべきだとしている。

1月からPGT-Aの臨床研究がスタートする。中絶が減るというのが一番のメリット。

【PGT-Aの歴史】
初期の頃:Day3の胚をFISH解析(※2)によってPGSを行った場合、妊娠率が下がるという報告が出て、これが一瞬注目されたが、胚盤胞をマイクロアレイにより解析すればPGT-Aは有効であることがわかってきた。

2014年: 次世代シークセンサー(※3)の出現によって、更によりよい検査ができるようになった。
2015年: 染色体異常率と流産率のデータが報告された。
2017年: PGSはある年齢でしか有効でないという臨床試験(STAR Trial)の結果が公表された。
採卵の個数を増やすと染色体異常率が増えると思われていたが、その逆で、採卵個数に応じて正常胚の個数も増えるという結果だった。
PGT-Aが有効だという結果が出たのは、38-41歳の患者であった。
2018年: PGT-Aを行うことによって、治療期間が3か月以上短縮できる。
また、正常卵が2個以上取れた場合は、PGT-Aを行わなかった患者と比べて治療費が安く抑えられたというデータが報告された。
2019年: 自然周期と刺激周期で異数性胚(※4)率は変わらない。
41~42歳は7~10個、42歳以上は10個以上採卵しないと、正常胚は得られない。

【PGT-Aの現状】

  • 分割胚(初期胚)は胚盤胞よりも異数性胚の確率が高い。また、同じ胚盤胞でも日が進むと、異数性胚の確率が上がる。
    分割胚:71.9%
    胚盤胞(Day5):50.4%
    胚盤胞(Day7):64.2%
  • モザイクが発生しやすい染色体の番号は年齢によらない。
  • 胚のグレード(見た目)では異数性胚は見分けられない。
  • クリニックの培養技術の差によって、正常胚の出現率が大きく異なる。一方、解析施設の差はない。
    (正常卵出現率がクリニックAは60%なのに対して、クリニックBは30%以下)

【モザイク胚について】

  • モザイク頻度の低い胚の方がモザイク頻度の高いものより妊娠率が高い
  • モザイク胚を移植する場合はモノソミーモザイクを第一選択とするとよい(46%が出産)

【胚生検をしないPTG-A】

  • 培養液中に蓄積されるDNAを評価するので、培養液に溜まってくるDay7以降でないと難しそう。この検査は臨床的には厳しい。

【日本におけるPGT-Aの臨床研究】

  • 6年かけてようやく1月からスタートする。
  • 12月に先行臨床研究(患者数少ない)の結果が論文となり、公表された  論文はこちら

解説
着床不全でPGT-Aを受けた群では、胚移植あたりの妊娠率は17/24 (70.8%)、受けない群では13/41 (31.7%)、流産率はPGT-Aを受けた群では2/17 (11.8%)受けない群では 0/13 (0%)になっています。
また、習慣流産でPGT-Aを受けた群では胚移植あたりの妊娠率は14/21 (66.7%) 受けない群では11/37 (29.7%)、流産率は受けた群では2/14 (14.3%) 受けない群では2/10 (20.0%)と報告しています。
合計すると胚移植あたりの妊娠率はPGT-Aを受けた群では胚移植あたりの妊娠率は31/45(68.9%)受けない群は24/78(30.8%)になります。
移植あたりの妊娠率が上昇することは統計的に有意であるとの結論です。
流産率については症例数が少なすぎて結論が出なかったため、更に人数を増やして臨床研究を行うということでしょう。
・対象者は下記の通り
1 反復ART不成功:直近の胚移植で2回連続して臨床的妊娠が成立していない
2 習慣流産:直近の妊娠で臨床的流産を2回以上反復している
年齢制限はなし

【PGT=Aに対するアメリカ生殖学会の見解】

  • PGT-Aは、胚盤胞の栄養外胚葉(※5)からの生検が適している。
  • 習慣流産の患者にはPGT-Aの効果が認められているが、不育症全てにおいて効果があるかは明確ではない。
  • PGT-Aを行うことによって、同時複数胚移植が減るので、多胎発生の抑制に効果がある。

【幹事Aコメント】 クリニックの技術によって、正常胚の出現率が倍も違うことに不安を覚える。
多施設に拡大した臨床研究が行われようとしているが、この状態で試験を行い、正確な結果が得られるのかが懸念される。

着床前・出生前のゲノム解析
加藤 武馬(藤田医科大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門)先生

【幹事Aコメント】
検査技術の難しい話が多かったので、その部分は割愛し、重要な部分のみ記載。
下記はPGT-SR(※6)の話であるが、PGT-Aも同様の手技が求められるので、クリニックを選ぶ上で参考にしてほしい。

多施設のクリニックからPGT-SRの依頼を受け、解析を経験するうちに、解析結果の質には施設ごとに差があることに気が付き、良い結果を得るためにクリニックで注意すべき事項をこの表にまとめた。

  1. 各施設がPGT-SRを実施する前に、生検の練習を積み、胚へのダメージのない技術を習得する
  2. 生検時は検体番号の取り違えに注意し、2人以上の体制で確認する
  3. コンタミネーション(※7)防止のため、生検はクリーンベンチ内で行い、チューブの開閉はオープナーを用いて、手袋を着用する。
    また、試薬の凍結融解の繰り返しは避ける。
  4. 全ゲノム増幅反応液中に細胞が含まれている必要があるため、生検した細胞は顕微鏡でチューブの底に入っていることを確認する。
    また、細胞が壁面に付着しないように注意する。
  5. 生検後、チューブは速やかに凍結保存する。
    凍結した細胞は1年以上の長期保存でも解析の質に影響は殆ど見られない。
  6. 細胞が融解されると、発送中の振動により細胞が飛散し、チューブの壁面に付着する恐れがあるため、冷凍で発送する。
  7. アポトーシス(※8)を起こしている細胞の生検は避ける。
  8. 生検は侵襲性を考慮し、胚盤胞の栄養外胚葉部位が良いとされている。
    また、次世代シークエンサーのモザイク異常の検出感度を考慮し、5細胞の生検が目安となる。

※用語集

  1. 有意差:統計学などで、確かに差があり、それは偶然起こったものではないといえるかどうかを検討した結果の差。
  2. FISH解析:蛍光物質をつけたプローブ(標的遺伝子と相補的な塩基配列を有する合成遺伝子)を標的遺伝子と結合させ、蛍光顕微鏡下で可視化する手法。
    精度に問題がある。
  3. 次世代シークセンサー:遺伝子の塩基配列を従来に比べて高速に読み出せる装置。
  4. 異数性胚:染色体が1本多く3本あるトリソミーと、逆に1本少ないモノソミーの胚。
  5. 栄養外胚葉:受精卵は卵割を繰り返し、やがて胚盤胞になるが、それに伴い、それまで1種類しかなかった細胞が、胚の外側を包む栄養外胚葉と、内側に位置する内部細胞塊に分化する。
    栄養外胚葉は胎盤などの胚体外組織に分化する部位である。
  6. PGT-SR:夫婦の染色体構造異常を調べてから異常がないものを胚移植する。
  7. コンタミネーション:他の物質(細菌や別人のDNAなど)が混じること
  8. アポトーシス:細胞死