お知らせ
「第4回 エンブリオロジストのためのPGTを学ぶ会」レポート
2018.11.26
高崎の群馬パース大学で行われた講演会に参加してきました。
新しい立派な建物の大学で12時に受付に伺い、交代でご用意頂いた昼食を食べつつ早速受付でチラシを配布しました。
参加者は50名程、演者等も含めると100名近いとの事で、荒木先生にもお会いして挨拶させて頂きました。
自ら私達のために椅子を運んできてくださるなど、高名な先生でらっしゃるのに、とても気さくで素敵な方でした!
「実際にPGTを受けて治療している患者で作っている会です。
医療関係者の方にも入って頂きたいので是非お願いします。認可の為には数が命なんです。」とお伝えしながら配りました。
「一応もらうだけもらっておきます」という方もいれば、「それは是非入会させて頂きます。」という方もいらっしゃいました。
受付を担当していた日本リプロジェネティクスの方はもう会員だそうでした。
受付バイトのパース大学の院生だという女性は、培養士を目指して不妊治療のクリニックでバイトをしているそうで、その場で入会して下さいました。
私は昼食を大石ご夫妻とご一緒させて頂き、色々なお話を伺いました。
昨夜神戸を車で出発されて、パーキングで車の中で寝てきた(!)、休みがなかなかとれないのでそれが夫婦の趣味だととても仲むつまじいご様子でした。
13時半より講演が始まりました。
以下、所感とメモのまとめです。
(がんばってメモを取ったのですが、何しろ専門用語ばかりで正確でない部分もあるかもしれません)
■講演Ⅰ
染色体異常がなぜ、どのようにして細胞分裂の際に起きるのか、というかなり専門的な生物学的なお話でした。
ほとんどは理解するのもやっとで、へーと聞くだけでしたし、直接我々患者が知ってすぐに役立つ情報という感じではなかったので、これは関係あるかな、と思った部分だけ書きます。
・母体年齢40歳でダウン症確立は1/106、何らかの染色体異常は1/66
・染色体の分裂にはコヒーシンが関与しているが、卵の加齢と共にコヒーシンが減少し染色体の接着がゆるくなる
→早期に分配されてしまったり、不均等に分配されてしまったり、不分離になったりし、数的染色体異常の原因となる
・構成的染色体異常→胚の全ての細胞が異常(母体の年齢と共に増加)
・モザイク→受精後の異常、正常と異常が混在(母体の年齢に関係ない)
■講演Ⅱ
演者の田村先生は荒木先生の会社の方です。
NGSを用いて実際に検査をされている方なので、こういう風に検査結果が出たら異常と判断します、みたいな検査結果の見方について主に話されていました。
(この方の時スライド写真撮影禁止だったので情報少ないです。)
・NGSで判定できない異常
*均衡型相互転座→数が正しいので識別できない
*三倍体、四倍体→識別できない
*微小構造変化→10Mbp以下の変化は検出できない
*モザイク→検出限界は20% それ以下は正確にはできない
等々、他にもあるので遺伝子病に関わる遺伝子の異常は見つけられない。
・2019年春にPGTに関する書籍を発売予定(第1回〜第3回の講演をまとめたもの)
■講演Ⅲ
リプロ東京の培養部長の方です。
大阪の立ち上げに参加されていたとか。
前半はPGTを取り巻く現状について、後半はバイオプシーの際の注意点について。
後半は本当に培養士の実技向け、でしたが、自分の胚もこうやって培養してもらったんだなあ、と思うと日々技術を磨いて下さってる培養士の方々に本当に感謝でした。
■講演Ⅳ
大石カウンセラーの講演は撮影不可でした。
KALCで行われているPGT-Aの現状とカウンセリングで聞いた患者たちの思いについてお話されました。
会のHPに投稿されているような、私達が思っている気持ちを述べて下さり、涙が出そうになりました。
・KALCでのPGT―Aの結果
57%出産・妊娠
3%流産
12%陰性
28%正常胚なし
採卵回数 PGT-A前後で変化なし(数メモしてません)
移植回数 PGT-A前 4.41回→後 1.44回
流産 PGT-A前 57%→後 4.9%
・PGT-Aを受けることによって患者は自分の状況を把握し、主体的に治療選択できる。
質疑応答では「モザイクの場合はどうしているか」という質問。
「他にもう移植する胚がない等の場合は移植している。また、事前にそういう結果が出る場合があると説明しておくことが大事」とのこと。
また、「正常胚を得られなかった患者さんも、やってよかったと思っていますか?」という質問には「話をする機会がないのでわからないが患者会に入っている方もいらっしゃるのでよかったと思っている方も多いのでは」というような答えだったかと思います。
時間が余っているようだったので、思い切って挙手し、恐れ多くも患者の会の説明をさせて頂きました。
もう一人の幹事も「正常胚を得られなかった患者さんも、やってよかったと思っていますか?」という質問に対してご自分の治療経験を話され、「やらなきゃよかったと思ってる人はいないと思う」と仰っていました。
■休憩時間
講堂の入り口に立って二人で再度チラシを直接配布しました。
沖縄から来ているという方は「基地が近いので外国人患者にPGT出来ないかと問い合わせがあるので来た。是非病院にチラシを置かせてもらいます。」と何枚か持って帰って下さいました。
■講演Ⅴ
イギリスで最大の私立不妊治療クリニックCAREの培養士さんの講演です。
主に培養についてでしたが、CAREでのPGT-Aの現状についても触れていました。
スライド英語なのでざっくりまとめです(間違ってたらごめんなさい)。
●スライド1
なぜPGSを実施するか?
→異数性の胚の移植を避けるため
・20%のCAREの患者がPGSを実施
・高齢の患者
・流産を繰り返している患者
・反復移植失敗患者
・原因不明不妊患者
・正産までの時間短縮
・染色体異常妊娠を減らす
●スライド2
PGSを成功させるには的な
→培養チームと医療チームと遺伝子チームの協力
●スライド3
最近のCAREの正常胚率と年齢
→2365例 平均37歳 31%正常胚
●スライド4
PGSで凍結胚移植当たりの化学妊娠率がとても高くなる(ってこと?たぶん)
【2017年データ】
・PGT-Aで65%陽性反応
・20%の患者は胚移植ならず
・95%の増幅率(PGT-Aの検査の為のということかと)
・0%の胚へのダメージ
●スライド5
モザイクの検出
●スライド6
CAREのモザイクに関するレポート
モザイクは30-70%のDNAサンプルに検出される
・正常胚 30%以下のモザイクは検出できないので正常胚となる(ということ多分。田村先生の講演では20%以下のモザイクは検出できないとなってました。)
・モザイク胚 30-70%のグレイゾーン
・異常胚 70%以上モノソミーやらトリソミー他色々な結果が出たもの
☆遺伝子カウンセリング、出生前診断、羊水検査が望ましい
●スライド7
再バイオプシーすべきか、せざるべきか
CAREでは6%の胚が「結果なし」と報告される
【研究の結果】
97%が解凍と再バイオプシー、再解析に耐えた
94%が結果が出た
12%(4/33)が正常胚 82%が異常胚
→継続妊娠している 再バイオプシーの価値がある!
●スライド8
凍結→解凍→凍結→解凍(ということかと)
PGSされてない凍結胚をPGS
80人の患者に臨床研究
94.7%バイオプシーできた
96%結果が出た
32%正常胚
25の正常胚が解凍され移送、13例妊娠(52%)
●スライド9
【まとめ】
・最良実施
・モザイクを意識すること
・再バイオプシーは可能
・凍結保存胚にもPGSは可能
個人的には、PGTの結果「NO RESULT」だった胚を一個凍結保存してあるので、それが再バイオプシーと再PGTが可能である事を知って衝撃でした。
懇親会でリプロの竹内院長に日本でも再バイオプシーが可能か聞いたところ、理論的には可能だが、日本でやっている所はあるのかな、との事。
後日大石さんに聞いたところ、「再バイオプシできるかどうかは、胚の状況により変わります。
こちらでも、再バイオプシにメリットのありそうな場合は、個々にお伝えして、再検査してます。」とお答えいただきました。
また大谷院長は「これは受精卵の状況によります。
再バイオプシーにトライは出来ますが、必ずしも結果が出るとは限りません。
私どもではpgtで結果の出なかった胚は必ず、保存しております。」との回答がありました。
■講演Ⅵ
リプロ東京の竹内院長の講演です。
・日本では不妊治療のボリュームゾーンが40前後であるのに対し、アメリカでは35前後。→これはアメリカは代理母等の他手段があり、また国民保険制度が無く治療費が高額なため、皆何度も治療を繰り返さず、早々に他の手段を選択するため
・胚盤胞にバイオプシーを行っても影響は無い、というデータは一つしかない、しかも35歳未満の良好なグループ→データがまだ少ない
・モザイクは年齢に依存しない
・PGT-Aによって出産に至るまでの期間は半分に短縮される
・PGT-Aに関してはアメリカでも意見が分かれている
2018年8月の最新の論文では、同じ研究チームの中でも意見が分かれている。・PGT-Aによって1PN,3PNのような捨てられる胚が救われる場合もある
講演では最新の論文を紹介して、PGT-Aに対する立場を明確にはしていませんでしたが、懇親会で聞いたところ、「どんな患者さんにも有効というわけではないので、あなたにはこういうリスクがあるが有効かもしれない、あなたには有効でないかもしれない、という風にする必要がある」といった趣旨のことをお答えになられてました。
■講演Ⅶ
荒木先生の講演です。
とてもユーモラスな方でした。
主にPGDの第一人者であるAlan Handyside博士のPGTの歴史を説明する動画 を紹介して下さいました。
この講演で心に響いた点は、昔はインフォームド・コンセント「十分な情報を得た上での合意」を意味する概念。
特に、医療行為や治験などの対象者が、治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で、対象者が自らの自由意志に基づいて医療従事者と方針において合意することである。
今はシェアード・ディシジョン・メイキング (shared decision making, SDM)治療方針の決定の際、医師が選択肢をあげてあくまで患者に治療を選ばせる手法である。 インフォームド・コンセントより患者の自己決定権が強くなった概念である。
↓
このpdfが分かりやすかったのであげておきます
https://www.pmda.go.jp/files/000221675.pdf
不妊治療はまさにインフォームドコンセントどころか、うちのやり方が気に入らないなら治療はしないなんていう病院があったり、診察時間がすごく短くてろくに質問もできなかったりする状況だよなあ、と思いました。
PGT-Aは世界的にもまだ議論が続いていて、有効なのかどうかわからないけれど、SDMの考え方であれば、選択肢の一つとして医師にメリットデメリットを説明され、私達患者がそれを理解して一緒に治療法として考え決定されてしかるべきだと感じました。
最後に荒木先生が仰っていたのかどうか失念してしまいましたが、「認可して、きちんと遺伝カウンセラーによるケアをすべき」的な発言もありました。
■懇親会
2時間程の懇親会の間に、いくつかのクリニックの先生にチラシ設置をお願いし、企業の方からもご提案を頂きました。
イギリスCAREの方に「イギリスではPGT認可の際に障がい者団体からの反対運動はなかったのか」と聞いたところ、「特に無かった、国民に意見を聞いて、OKが出て進んだ」との事。
大石カウンセラーからは「遺伝カウンセラーは現在日本に220人、不妊クリニックは600近い、数が足りない」というお話も伺いました。
以上、乱筆乱文ではありますがレポートになります。
最後に。
エンブリオロジストの為の会に、一般人である自分が参加しても良いのだろうか、場違いなんじゃないかと不安に思いながらの参加でしたが、結論から言うと、勇気を出して参加して本当に良かったです。
今、医療の現場や最先端の研究者の間でPGTがこんなにも真剣に議論されているという事を肌で体感し、認可は決して夢物語ではなく、現実にし得る事なのだ、PGTを求めているのは患者だけでないのだ、と勇気が沸きました。
そして、なかなか公に声を上げることの出来ない私達患者の生の声を、ほんの少しでも医療関係者の方に伝えることが出来、応援してくれている方がいると分かったのも本当に嬉しかったです。
また、イチ患者には知り得ることの出来なかった最先端の情報を聞くことができて、とても有意義だったのと同時に、これらの情報が本当に必要なのは、現在治療中である患者達ではないだろうかとも思いました。
我々患者は忙しい医師達との限られた短い診療時間の中で、可能な限りの情報を得て納得の行く治療をしたいと思って、日々情報収集に奔走しています。
けれど、PGTに関して世の中に出回っている情報はとても変化が激しく、かつ限定的で、それに辿り着くことすら時には困難です。
ですから、こういった勉強会や講演会にもっと参加して、最先端の情報を得て会員に共有していく事も、これから患者の会としてやるべき大切な活動の一つではないかと強く感じました。
案外、我々が声を上げれば、動けば、聞いてくれる、応援してくれる。
だから、もっと声を上げよう、実際に動こう。
そう思いを新たにした「PGTを学ぶ会」でした。