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第5回 日本産婦人科遺伝診療学会聴講レポート 2回目

2020.01

第5回日本産科婦人科遺伝診療学会学術講演会のレポート第2回目です。

今回は、シンポジウム2「着床前診断」の2演題についてです。
PGT-Aが有効な患者像の話や正常胚およびモザイク胚の施設間差の話など具体的、実用的な内容が盛り沢山です。
転座に関する詳細な情報も含まれています。
聴講とレポート作成を担当して下さったサポーターBさん(現在治療中でPGT-Aもご経験されています)もご自身の治療の参考になる内容もあったと仰っていましたので、治療中の患者様にお読み頂きたいレポートです。
重要部分には下線、更にコメントも記載しておりますので、合わせてご確認下さい。

生殖シンポジウム2
「着床前診断」
倉橋浩樹先生(藤田保健衛生大学)
「PGT-A・PGT-SR・PGT-M(※1)の現状と問題点について」

【サポーターBコメント】
PGT-A・PGT-M(※1)の拡大にあたり、展望や課題についてのお話が中心であった。
クリニックの技術によって正常胚率、モザイク胚率が違うという話や、モザイク胚の取り扱いについての話なども出ており、着床前診断を実施中・検討している方には是非読んでいただきたい。

【次世代シーケンサーNGS法について】

  • 現在はDay5の胚盤胞から5細胞を採取生検することが推奨されており、5細胞を次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)で解析することで検査の精度が格段に向上している。
  • PGDIS(※2)のガイドライン2019にも、生検する細胞数が少ないとノイズが増え、モザイクと見間違いやすいため生検は5細胞が理想生検による侵襲性の影響を最低限にとどめる観点からも5細胞が理想
    生検の技術が重要との記載あり

【検査結果の解釈について】

  • NGS染色体解析において大事な要素は検査技術と検査結果の解釈である
  • ・検査会社、検査施設によっては検査結果の解釈、判定は行っていない場合もあるため、検査を依頼した医療機関が検査結果を解釈する必要が出てくる。
  • 遺伝医療の専門家の存在下で、専門カウンセラーなどと一緒に検査結果を解釈する必要がある。
    PGDISのガイドライン2019には、
    • 移植の優先順位は正常胚からだが、正常胚がなくモザイク胚がいくつかある場合はモザイク率の低いものから
    • 疾患が知られている染色体14,15(UPD)(※3)2,7,16(IUGR)(※4)13,18,21(パトー症候群、エドワ ーズ症候群、ダウン症候群)を除く
    との記載有。

【モザイク胚について】

  • モザイク胚の解釈、移植するか否かが最も難しい。
    モザイク胚を移植して半数ほどは妊娠しなかったが、一方でモザイク胚の移植により正常妊娠・健康児出産に至った患者もいるとの報告がある。
  • モザイク胚を移植した際は、出生前診断や羊水検査のオプションも提案していく。
  • モザイク胚の場合は胚のどこを採取生検したかによっても結果に不一致が出やすい。

【施設間の正常胚率の差について】

  • 施設間で正常胚率も、モザイク率も違う
  • 正常胚率に差がみられる要因としては、
    • 胚生検した細胞数が少ない
    • 胚生検の技術の違い
    • 輸送の問題
    • 培地、培養液
    などが考えられる

【PGT-Aが有効な患者】

例えば10個採卵・生検して
10個のうち1個が移植可能胚→染色体に原因があるのでPGT-Aによる妊娠に期待ができる。
10個のうち5個が移植可能胚→不妊や習慣流産になる理由が胚にはない。染色体以外に何か原因があることを反映している。PGT-Aによる妊娠は期待できない。

【PGT-Aの臨床研究の拡大について】

  • 従来のPGT-SRでは見解上は転座以外の染色体をみることができなかったが、PGT-Aの臨床研究の拡大で、PGT-Aの中にPGT-SRが含まれることになったので、転座以外の染色体もみることができるようになる。
  • 個別審査がなくなり、手続きが簡略化。
  • 転座保因者においては習慣流産でなければならないなどといった記載もなくなり不妊、化学流産も対象になる。
  • 拡大のデメリットとしては、個別審査がなくなることで、小さな転座領域を見失う・見間違う可能性が出てくる。

【PGT-M(※1)について】

  • 現在日本ではPGT-AとPGT-Mを同時に併用することは出来ないが、PGT-AとPGT-Mを同時に出来る時代を待ち望んでいる。
  • PGT-M拡大に当たり、今後対象疾患をどうするか、有識者を中心に議論、検討されている。
  • 日産婦は、重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性がある場合、成人発症の疾患(遺伝性腫瘍症、神経変性疾患)を対象疾患へ拡大する方向。

【着床前診断の問題点】

  • 出生前診断よりハードルが低いため、優勢性思考に陥りやすい
  • 受精卵ゲノム編集によるデザイナーズ・ベイビーの誕生
    以上のような問題点も残るが、総じて患者には確実十分な遺伝カウンセリングを行い、患者が理解納得したかどうかを確認する必要がある。
    最終的には夫婦2人のチョイスとなる。

【サポーターBコメント】
クリニックの技術によって正常胚率、モザイク胚率が違うという話がこちらの演題でも出ていた。
患者としては、各施設での正常胚率を開示いただいたうえで、着床前診断を行う施設を選びたいものだ。
また、私自身、正常胚を2度移植しても妊娠に至っていないため、胚生検による胚のダメージの可能性や、不妊や習慣流産になる理由が胚にはないとも考えられ、大変興味深い内容であった。

【※用語集】

  1. PGT-M(Monogenic):特定の遺伝子異常によって起こる遺伝疾患の検査
  2. PGDIS:国際着床前遺伝子診断学会
  3. UDP:一対の相同染色体がどちらも片方の親から由来し、他方の親からは由来しない状態(片親性ダイソミー)
  4. IUGR:子宮内胎児発育遅延

生殖シンポジウム2
「着床前診断」遠藤俊明先生(札幌医科大学)

【サポーターBコメント】
PGT-SR(※5)を考慮している夫婦に対する遺伝カウンセリングについてのお話だった。
今後着床前診断を検討する予定のある方は、医師や遺伝カウンセラーから遺伝カウンセリングを受けるにあたり、医療従事者からの説明やカウンセリングが充分であるかどうかの参考にしていただきたい。
一部、転座がある方への情報があったので転座のある方にもご確認いただきたい。
また、モザイク胚の取り扱いや、クリニックの技術によってモザイク胚の出現率が違う事などについても触れられていたので、モザイク胚を移植するか否か悩まれている方にも御覧いただきたい。

【PGT-SR(※5)に関わる医療従事者は患者にどういう情報を提供するべきか】

  • 医療従事者は患者の自律的な意思決定を支援するために情報を提供する必要がある
  • 患者には、着床前診断に対する日本産婦人科学会の考えと、着床前診断にはどのようなリスクがあるかを伝える必要がある。
  • 着床前診断の結果、皆同じ確率で染色体の不均衡が起こるわけではない(正常胚率が患者によって異なる・転座の有無や種類が患者によって異なる)ので、一律な説明は不適切であり、患者ごとに説明の方法を変える必要がある。
  • 患者ごとに着床前診断のリスクを予想するのは困難であるため、リスクを正確に患者に伝えるのは難しいが、可能な限り、リスクを評価して遺伝カウンセリングの中で提供するべきである
  • 染色体の不均衡について、検査結果をどう読み解くかのテキストやガイドラインはないので、担当医師・検査会社で考える必要がある。
  • 遺伝カウンセリングに関するガイドラインはないので、施設ごとに考える必要がある。
  • PGT-SRといえどPGT-A(※6)の側面も持っているので網羅的な情報を提供する必要がある

【患者は何を知りたいか】

  1. 次妊娠した時の流産率・死産率
    →流死産のリスク:隣接1分離に関してはガードナーのテキストに書いてあるので知ることができる
  2. 不均衡転座の子供が生きて産まれる確率
  3. 自分の胚盤胞にどのような染色体異常があるか

【不育症と関連のある染色体異常について】

  1. 均衡型相互転座(4個染色体、3:1分離2種、4:1分離、隣接Ⅱ分離)
  2. ロバーソン転座
  3. 椀間逆位
  • 転座によっては流産率が参考値としてわかる
  • 均衡型相互転座はt(11:22)(q23:q11)に限っては症例数が多いので、胚移植後の流産率がわかってきており、患者さんに情報として示すことができる
  • ロバーソン転座も情報量が多く、流産率、トリソミー率、赤ちゃんが生まれた場合の予後などについてデータがある
  • 椀間逆位はデータが限られる

いずれにしても今までに報告があるかどうか等できる限り調べて患者に情報を提供した方がよい

【モザイク胚(※7)について】

  • モザイク胚率は女性の年齢とは関係ない
  • 男性の重度の乏精子症とは関連がある
  • 培養環境(ラボ)とは関連がある
  • 胚移植の対象とするか否か議論になるのは変異率が20%~80%のモザイク胚
    (変異率20%以下はほとんど正常胚。変異率80%以上はほとんど異常胚。)
  • 異常胚の可能性が高いモザイク胚でも、患者の状況(年齢や採卵数)によっては十分な遺伝カウンセリングのもと、移植する。
    その場合は洋水検査を推奨する
    (ただしコンセンサスは得られていない)

【※用語集】

  1. PGT-SR(Structural Rearrangements):夫婦の染色体構造異常を調べてから異常がないものを胚移植する。
  2. PGT-A(Aneuploidies):受精卵の染色体数が正常であるかどうかを判定してから胚移植する。
  3. モザイク胚:染色体変異のある細胞と正常な細胞が混在する胚