アンケート結果

お知らせ

日本産科婦人科学会倫理委員会 公開シンポジウム 聴講

2018.12

早速ですが昨年12月22日に開かれました
日本産科婦人科学会倫理委員会 公開シンポジウム
「着床前診断 -PGT-A特別臨床研究の概要と今後の展望- 」のレポートを配信します。

参加者: 幹事3名
(医師が約200人、その他が150名程度でしょうか・・会場は満席でした。)
以下の演題について、幹事の個人的な感想を交えてご紹介させていただきます。

パイロットスタディー(臨床検査)、分析は全て終了
85例(反復不成功42例、反復流産42例)リクルート 採卵できず脱落があり、検査は77例
検査可能胚が見つかったのは76例、検査可能胚はほぼすべてで見つかった。
移植できたのが38例 移植可能率49.4%、患者77名の半数が移植できた。
妊娠した(12wまで)27例 移植当たり71%、患者77名の35%が妊娠できた。
流産3例 流産率7%

8例が移植待ちなので、3か月後くらいには論文にできる予定。

1)PGSからPGT-A?着床前胚染色体異数性検査をめぐる国内外の動き
杉浦真弓(名古屋市立大学産婦人科教授)

感想「PGT‐Aについては全否定でした。」

杉浦先生「不育症のデーターはちゃんとしたものが少ない」という前提で、大谷先生の上記データーについては、「コントロール群がない(ので信頼性に欠ける)」ということでした。
「PGSで出生率は上がらない。流産回数が多くても、PGSで改善はしない」
↑累積生児獲得率は変わらない。(新聞に載った先生のデーターも紹介)
「高齢女性では、PGSを行うことで、むしろ出産率は低下する」
「PGT-Aのメリットはハッキリしていない。」「原因不明の習慣性流産の人は、何もしなくても最終的に85%が出産できている」「スクリーニングしてもしなくても、流産率・出産率は同じ」と発言されていました。
また杉浦先生は、今回のパイロット試験の対象患者において、「既往流産において、少なくとも一回は染色体異常が確認されている事」を条件に入れるのが重要と考えており、そのために対象患者が少なくなってしまっているようです。

2)特別臨床研究パイロット試験の概要  桑原 章(徳島大学産婦人科准教授)
  桑原先生は「卵の見た目から染色体異常は全く分からない。我々は何も知らずに異常胚を体に戻していた。」と断言されていました。
PGT-Aには好意的な印象でした。

3)医療者の立場から(パイロット試験を経験して)
加藤恵一(加藤レディスクリニック院長)

加藤先生「最後の砦と言われているウチでも40歳を過ぎると50%が流産に終わる」と。

しかしPGT-Aを患者(平均年齢39歳)に実施し正常胚を移植したところ、移植あたり82%(14/17)の妊娠率であり、流産率は0だった。
36%の患者では移植可能胚が得られなかった。

<PGT-A有効例を紹介>

41歳女性・流産3回→PGSを実施し、12の胚のうち、一個だけ正常卵(D判定)があった。それを移植し現在妊娠継続中。

加藤先生「習慣性流産には、思っていたとおりPGSの効果はあった。
反復不成功例では8割が妊娠した。これは思いがけない良い結果であった。」

加藤先生はPGSは非常に有効であるとおっしゃっていました。
日本で一番体外受精を手掛けておられる先生がPGSの効果を実感されたというのは非常に大きい意味があると思いました。

福田愛作(IVF大阪クリニック院長)
「日本の生殖医療におけるPGT-Aの意義」

PGT-Aに対する意見

1 PGT-A生殖医療の根幹をなす技術である。
2 PGT-Aなくして正しい臨床試験や科学的検証は行えない。
3 PGT-Aなしでは先端技術である子宮移植なども実施することはできない。
4 高齢化の著しい日本の不妊治療現場ではPGT-Aは必須の検査である。
5 PGT-Aのための胚生検が胚にダメージを与える可能性は否定できない。
6 PGT-Aは不妊治療の時間短縮に有効である。特に高齢の患者にとっては必須の技術である。
7 PGT-Aを受ける機会を奪うことは、不妊治療患者の科学技術の進歩の恩恵にあずかる機会を奪う非倫理的なものだと考えている。
8 不妊治療を行う一生殖医療専門医として、患者さんの福音のため一日も早いPGT-Aの解禁を切に願います。

福田先生は、杉浦先生の前で 終始「PGT-Aは絶対必要だ」と力説されており、非常に痛快なご講演でした。

不妊症・不育症に悩むカップルの声 代読  

不妊症で悩んでいたご夫婦がPGT-Aを受け、赤ちゃんを授かるまでを涙ながらに話しておられました。
患者代表ということですが、このご夫婦以上に適任の人はいないと思うほどでした。
また、筋ジストロフィーの患者さんも、この講演会におられ意見を述べられました。
もちろんPGT-Aは反対という立場です。
患者さんの声は聴きとりにくく、車いすのため姿が私からは見えませんでしたが、彼女の存在自体が非常に重く感じられました。
どちらの方も実際に会場で意見を述べられ、感情に訴えるものがありました。

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今回のシンポジウムに参加した幹事の感想

*今回シンポジウムに参加して強く感じたことは、多くの先生方がPGT-Aの効果を実感されているということです。
特に体外受精を数多く手掛けている不妊専門クリニックの先生方がPGT-Aの効果に驚かれていました。
卵の見た目から染色体異常は全く分からない・・・異常卵を今まで患者の体に戻していた・・・PGT-Aは必須の検査である!!と、多くの声が上がりました。
しかし会場にいるすべての人がPGT-Aに大賛成というわけではありません。
「私は産まれて生きて、とても幸せです(だから受精卵の段階で選別をしないでほしい)」と言った筋ジストロフィーの患者さんもいます。
まだPGT-Aの効果に懐疑的な先生もいらっしゃいます。
問題はすべて解決されたわけではありませんが、今回臨床研究に参加した大多数の先生がPGT-Aの有効性を確信しておられるので、PGT-Aが正式に承認される日も遠くはないと思います。

*シンポジウムは聴衆参加者が医療関係者に限定されたものではなかったので、日産婦の世間に対するエクスキューズ的(弁解、口実)なものにも思えました。
それぞれの方の発表を聴くと日産婦も一枚岩ではなく、PGT-A推進派と否定派にわかれていることがわかり、認可まで、あともう一押しの状況であることが感じられました。今年の3月以降にずるずると日産婦の押すやり方でPGTが行なわれたら、現状のPGDのように、PGTを受けたいと思っている患者のすべてが受けられないままで時間を無駄にしてしまうと危惧しています。

最後に・・
今後の動きとしては・・
現在、PGT実施施設の登録中(70施設)、倫理委員会の構成に問題がなければ通しているとのことですが希望者全員が受けられるわけではありません。
PGT-M、PGT-SRについて、学会は症例審査のみ行い、施設内倫理委員会で問題解決は行うとのこと。
症例登録、経過報告はしてもらうとのこと。

引き続き実施施設を増やすとはいえ検査を受けることのできる患者を選ぶのは医師でありPGT-Aを望むすべての人が検査できる状況では決してありません。
患者の会では医師が選ぶのではなく望む人が受けられる検査になるよう引き続き声を上げていきたいと思います。